7 騎馬旅行-4

政治には指を触れぬ

橋がなくとも、道路がなくとも、国民が不便としないのであれば、欧州の旅人は不服を言ってみたところでなんの役にも立たない。
特に私のような自然科学を専門とするものは、ただありのままを見てありのままを記すのみ、是非の評価を下すべきではないが、 考えてみると朝鮮人は口に治国平天下を説き、仁義忠孝を教えているにもかかわらず、実際の政治には指一本も触れていない
形式のみの人種である。

 
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交通上に注意を払わない間は、国民の眠りはいつまでたっても覚めないのである。
私は前に記した宿を出て2日目、元山の本街道を外れて金剛山方面に馬の首を向けた。 道は心地よい林の中を縫って進む。特に山野一面のユリの花は私の血を湧き立たせるほどに美しかった。
行く行く海抜1300フィートの峠を越した。
峠には社があって、中国の軍神に似た神様を祀ってあった。面白いのは古靴、古草履をそこいらの枝にかけたり、小石を積んだりして 旅人は一路平安の旅の祈願をささげるとのことである。
私の馬子もこの山神の前にひれ伏してしばし、悪魔退散旅行安全の祈願をこめた。

加持祈祷

朝鮮では悪魔を祀る風習が甚だ盛んで、私は途中一度ならずその祭祀を目撃した。 ある家を去ること遠からずの場所に祭壇を設け、たくさんの供物を陳列してあるいは太鼓を鳴らし、あるいは鐘を叩き、巫女が悪疫平癒を祈っている。
説明によれば、如法の祈りを終わると、供物の一部は病人へ薬餌として無理にでも食わせるそうである。
そしてこの供物の摂取は患者の運命を決する行事であって、これをもってしてなお回復しない者は人生の定命既に尽きはて、 もはや人力の及ばざるものとされている。
気の毒なのは病人で、チフス患者の如きは哀れにもこの最後の試練により殺されてしまうものが数知れぬであろう。

映える雲薫る風

私は次第に金剛山近くに進んでいる。鋳物が名物である村も通り過ぎた。折から2,3日続いての雷雨、台風さえ加わって、馬上から吹き飛ばされるほどであった。
雷雨治まり、風が凪げば前にも勝る快晴。くまなく洗練された空は緑深く、夕映えに映える雲は紫色の峰を往来し、宇宙の荘厳はいかんなく現れた。
懸瀑、急流あるいは一条の布晒しとも見え、あるいは飛沫切を起こし、あるいは珠玉砕けて虹を生じ、あるいは泡立ち、あるいは渦巻き、 深山は静まりかえって声もなく、野草は黄に赤に花を染めた茎を伸ばし、ふくいくたる芳香は何処よりか風に漂って旅の衣に染み渡る心地がする。

大自然の美

幾度か繰り返したが、実に朝鮮は風光に富んだ国土である。
山川草木悉く美的調和を失わないように自ら成り立っている。
惜しむらくはこの風景に相応しい人物がいない。恐らくは朝鮮を旅行して記憶に留まるのは無作法な住民ではなく、この大自然であろう。
いやいや、このような折に人心の優劣に自分を悩ませるべきではない。
不潔な家も少し遠ざかって眺めれば、そこにはやはり自然と同化した趣がある。
汚れた衣服も接触しなければ純白無垢の浄衣を着る天上人の姿がある。
山川草木が織りなす自然の曲線と色彩はこれに配する村落里人を得て初めて生動する。 この間には工場の煙とか、多忙な欧米人をもってきては調和しない。やはり朝鮮人でなければならぬように思う。

最終更新日: 2013-12-11 06:16:35

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