6 自然の美-3

風雨加わる

役所から帰船する途中で日が暮れた。昨夜永春で虎が出てさんざんに荒らしまわったとのことで、道案内役の者は 暗夜灯火のない道を歩くのを非常に怖がっていた。私も実際にあまり良い心地はしなかったが、 幸い船頭の金老人が松明をともして出迎えてくれたので助かった。
その夜は雨になって風も加わり、翌日の午後まで続いた。
しかしそのおかげで私はそのあたりを子細に見聞する機会を得た。雨の贈り物の第一は、永春上流の城跡探検である。 記念としてその行程を記録しておく。

 
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城跡の探検

永春から早瀬を遡れば、しばらくしてほとんど登れそうもない丘陵に出る。 丘陵の上にはさらに例の石灰岩が屹立して天然の城壁となり、その上にまた人工の城壁が築かれている。
城壁の延長は2300フィート、高さ26フィート、厚さ12フィート、そして最も要害中署に二つの縄文がしつらえてある。
門に通じる道は岩を掘り割ったきわめて狭いもので、2人並ぶこともできない。 いざ戦争となれば、ここを通って攻め寄せる敵を一人一人切り捨てればよいのである。

城の歴史

里の人に聞いても、この城の伝説を知る者はいなかった。おそらく朝鮮が李朝に統一されるよりはるか以前、 群雄が割拠して覇を争っていたころ、一人の武将がこの漢江を見下ろす要害に城を作ったのであろう。
朝鮮の城砦に詳しいミラー君は、子細に調査して、京城周辺の城に比べ非常に古いことを説明してくれた。 城壁に立てばはるか先に烽火台が見える。昔はそこに幾度かのろしが上がり、姫君たちをさぞかし驚かせたであろう。

漢江下り

無名の城跡に足跡をしるしたのち、私は漢江を下ることにした。 昨日の雨で水かさは1尺ほど増している。混濁した波は泡を立て、矢のように走る。

船足はやし

かつて数時間を要して上ったところを、今は数分で駆け降りる。 驚いてみた風景は走馬灯のように現われては去り、去っては現われる。実に痛快である。
船旅の遅さを悔やんでいた私は、失った時間を取り戻しているような心地がする。
しかし、折には危険なこともあった。波にもてあそばれる小舟は、何度か転覆しそうになり、 ある時は岩角に衝突しそうになった。

船が転覆しそうになる

長い瀬にもまれて動揺している中に、船頭の過ちから、ついに波に船足をすくわれてしまった。 この時野外寝具、私の専門上の記録、英国王立地学協会から拝借してきた器具の若干、 写真乾板40枚ほどが流されるか破損してしまった。残った夜具布団食料品はすべて水に濡れてしまった。

両替に苦労する

私が京城より持参してきた銭は、このころ、ほとんど使いつくしてしまっていたから、船を岸に寄せて両替を頼むことにした。
ところが、日本の銀貨を見たことのある者はそこにはおらず、誰も両替をしてくれなかった。
ようやく堤川付近まで来て、35円を取り換えてくれる人がいた。私は両替した銭を船まで運ぶのに、二人の人夫を雇わねばならなかった。
この場所は、河港として繁盛している人口2000人ほどの町で、米や豆などの農産物を輸出して外国製の綿織物や藍やらを輸入していた。

最終更新日: 2013-12-03 21:04:34

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