5 漢江上り-3

怠惰の風とその原因

京城においても田舎においても朝鮮人が仕事嫌いな点は弟たり難く、兄たり難して、誠に一生を夢のごとく無意義に過ごしてゆく。
なぜ彼らはここまで労働の尊きを悟らないのか。
彼らの容貌は決して働くことの有難きをを知らないほど愚かではない。形式だけとはいえ、中国の儒教は人生のなんたるかを教えている。

 
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隣国の中国人も日本人も営々と働き、自己の運命を開拓して生きた手本を示しているにもかかわらず、 朝鮮人は死せる者の如く、その刺激を感受せぬ不思議な国民である。
私は社会制度が居候を許すから自然に指すら動かすことが面倒くさくなってしまって、独立自主の精神が消滅してしまったものかとも思った。

産業の敵は官吏である

しかし、それは誤りであって、朝鮮国民の保護者であり、指導者である官吏が朝鮮の産業を毒している張本人であることが判った。
彼らがいるために、人民は自己の計算によって確実な営業を行うことが難しく、労働の機会は奪われ、貯蓄はできず、 資本はならず、安価な真鍮製の器具すら贅沢だといって官吏仲間に睨まれ、 経済学でいう欲望の満足は、頑固で迷惑な彼ら両班から暴力をもって妨げられ、 徐々に卑屈で無知な希望泣き性格になっていってしまったのである。

大食い

朝鮮人は一般に大食いで労働者の平均食料よりもたくさん食べる。 女は世の習いとして亭主の食い残しを食べることになっている。
高さ一尺の丸膳に偉大なる椀を供え、それに飯を山と盛り上げて口音高く食事するのは壮観である。
おかずとしては一律に唐辛子入りの漬物ばかり、その他に料理法が進歩したと思われるものもない。

学校

村々には学校があった。ただし公立の学校ではない。多くはささやかな私塾である。授業は漢文の素読に限られている。
総体儒教には射御礼楽など敷科目があると聞いていたが、そんな授業はさらになかった。

やはりハングルを卑しむ

田舎とはいえ、ハングルを軽んじるのは京城同様で、漢字を知ることはその人の社会的地位を高め、 登竜門のノブを握るものとされている。そのためか、漢江河畔の住民はおおむね自分の名前を漢字で書くことができるそうである。
今までに漢江沿岸地方で2か所しか仏閣を見ていない。それ以外には何ら精神世界を支配する設備を見つけられなかった。
キリスト教の礼拝堂も、もちろん存在していない。

金鉱以外にない

今まで見聞したところでは、この地方はさして鉱物に富んではいない。私の取り調べた地層から推断すれば、 石炭はあるいは存在するはずだが、いまだに燃える石とか土とか、石炭の存在をにおわせる伝説を耳にしていない。
漢江の上流では若干の鉄と銅を採掘していると聞くが、大した量ではないので、要するに鉱物としては金を除き有望なものはなさそうである。

旅行は安全である

京城を出るときに奥地旅行を危険を繰り返し説明され、中止の忠告さえ受けたほどで、 実は私も内々幾分の恐れはないではなかったのだが、案ずるより産むが易きもの、今までに一度も危険と思ったためしがない。
朝鮮人はみな親切で敵意などある者はいなかった。

物珍しげに見られる外国人

ただ、欧州人を初めて見るので少なからず彼らの注意を引いたのは無理からぬことと諦めねばならぬ。好奇心は誰にでもある。
私が朝鮮の奥地を探るのも、朝鮮人が私を見物に出かけて1日でも2日でも岸に腰を下ろして私を眺めまわすのも、共に同一の心理状態と見ねばならぬ。
私が動けば蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ去って、容易に言葉を交わすことができない。物を買おうと思っても、誰もよりついてはくれなかった。
例の銭の一貫を手に持って振って見せたところ、どこの里も金次第、兼ねは万事をすらすらと解決させてくれた。
要するに朝鮮国内旅行は外国人といっても危険なことはない。もし金を用意していたら、なお安全である。
振り返ってみると、長いこと小舟生活をした。私はこれからもこの小舟に乗ってさらに奥へ奥へと分け入るつもりである。
今までに船の入れぬ浅瀬に何度か出会ったが、その時は岸を伝って歩いた。世話をしてくれる人も健在で、持参の晴雨計はなおも晴天を指している。
天朗らかに空気は清し、漢江上りはここで止めて、さらに別途の観察を試みよう。

最終更新日: 2013-11-28 06:16:19

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