5 漢江上り-1

雪の水花の山瑠璃の空

1隻の小舟を宿と定めで漢江の流れに棹をさし、昼は読書、夜は眠る生活を5週間過ごしたけれども、 眼前に広がる山水はなかなか捨てがたいもので、旅の徒然を慰めてくれた。
数日後、周囲の光景は次第に雄大荘厳となり、仙境に入る心地がする。緑濃く、春草が湖畔に生え、 柳の綿が飛び、花は野に満ちている。

 
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棹をさす漢江の水は澄みきって水底に真砂が敷き詰められている。 船に当たって砕ける水は七色の日の光を現してまたとない美しさである。
栗の林が続き、農家が点在するなど、眺めていて飽きない。

樹木の数々

仁川京城間の禿げて乾いた趣ない光景に比べ、野があれば草が茫々と生え、山があれば林がある。
ピーヌス、シネンシス、アビエス、ミクロスペルマ、プラタナス、ソフォラジャポニカ、ユーオニムス、 アラッス、ツジヤ、オリエンタリスなどの松柏属、その他種々の樹木が繁りあい、花奔類ではヘリオトープ、 桃色緋色の花が今を盛りにと咲き競い、クレマチスやらアクチュニジアはまた白に黄色にその装いを凝らし、 見渡す限り花の山。私は未だかつて公園でも植物園でもこれほど麗しく飾られた自然を見たことがない。
アンぺロプシス、ベチアナは若緑にわずかに紅を加えた美しい葉をもって木の幹をつつみ、枝を巻き、 ときに崖に繁り、野薔薇は人の毒手を逃れて思うところに咲き乱れ花を慕う蜂を集めて芳しい香りを風に漂わせている。

水面の鴨、岸辺の鶴

そのような自然美の中を分け行く私は起き伏しに多少の不便を感じたけれども、非常に楽しい日々を過ごした。
蝶が舞えばトンボが飛ぶ。水面の鴨、岸辺の鶴、折々に見る鷺の風情、猛禽の勢い、ともに目を楽しませてくれることばかりである。
今までの経験では野獣の姿を見ず、また家畜も多くはいないようである。
羊もヤギも飼育されず、小さな黒豚と牛馬が目に入るのみである。
犬は各家の飼われているが、見かけによらず臆病なもので、吠えるほかに能もない野良犬である。

虎害頻々

朝鮮野獣といえば虎である。私は最初この平和な世の中に虎が姿を隠しており、すきを見ては人畜に被害を及ぼすなど、 信じることができなかった。
しかし、行く先々で虎の話を聞かされ、しかも私が元山についたその前夜、虎に子供がさらわれ、 無残にも小さな骨と肉が後ろの丘に残されたのを見て、もはや疑うわけにはいかなくなった。
漢江を上ること数十マイル、川底平らであるいは湖かと思わせる場所に着いた。 ここには昔平和な集落があり、炊煙たなびき、番犬の声遠くまで聞こえる場所であったが、今では草が茂るばかりである。 虎のために滅んだ遺跡であると聞かされた。

虎狩り

初めは虎の存在すら疑っていたが、果たして虎はいるどころか、虎狩りを職業とする者すら少なからずいることを知った。
彼らは日ごろから山間を歩き回り昔の武者修行者が盗賊のたぐいを退治するごとく、虎の居場所を突き止め、あっぱれな手並みを現している。
彼らは、ことあれば禁裏守護の任に当たる一種の軍隊となる。
虎狩りより面白いのは鷹狩である。ある人は降りろ里に狩場に出ては2、30羽の雉を一日で捕えるそうだ。
「私もその時は100里も駆け回るのだ」と健脚を誇って膝を叩いて見せた。なるほど、そんなこともあるかもしれない。
雉狩りの盛りも過ぎたころであろうというのに、1羽34ペンスで購入することができる。イギリスでは雉一羽 3ペンスでと売り歩いても、誰も嘘だと取り合わないであろうに。

最終更新日: 2013-11-26 21:56:24

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